中小企業は「働き方改革」にどう対応すべきか?


安倍政権が最重要テーマとして掲げる「働き方改革」の各種制度が、今年4月から順次実施されています。これらは中小企業にとっても大きな影響をもたらすものであり、その内容を理解して、適切な対応をとる必要があります。


「働き方改革」とは何か?


「働き方改革」は、2015年4月に国会に提出された「労働基準法等の一部を改正する法律案」が始まりです。
その後、大手広告代理店の女性社員が長時間の残業がきっかけで過労自殺する事件が起こったり、当初の改正案に盛り込まれていた裁量労働制を巡って厚生労働省のデータに不備があることが発覚したり、様々な紆余曲折を経て2018年6月に関連法案が成立しました。そして2019年4月から順次、実施されています。
「働き方改革」の背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少、育児や介護との両立など働き手のニーズの多様化を始めとする、日本社会の大きな変化があります。
こうした中、安倍政権は「一億総活躍社会」を掲げ、働く人がそれぞれの事情に応じて、多様な働き方を選択できる社会を実現すべく、政府が先頭に立って「働き方改革」に取り組んでいます。様々な批判や反対もありますが、「働き方改革」の流れはもう止まらないでしょうし、むしろこれからさらに加速していくのではないかと考えられています。


「働き方改革」の概要と実施時期


「働き方改革」には色々な項目がありますが、主に労働時間に関わるもの(①~⑧)と、雇用形態に関わるもの(⑨~⑪)に分けられます。
また、それぞれの実施時期は、大企業と中小企業で一部異なります。中小企業にあたるかどうかは、資本金(出資金)の額と常時使用する労働者数によって判断されます。
図表1 「働き方改革」の概要と中小企業における実施時期


内容
実施時期
①残業時間の上限の規制
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)のいずれをも超えることはできません。 また、原則である月45時間を超えることができるのは年間6か月までです。
2020年4月1日
②年5日間の年次有給休暇取得の 義務づけ
使用者が労働者の希望を踏まえて時季を指定、年5日の取得が義務化されます。
2019年4月1日
③高度プロフェッショナル制度の創設
高度専門職を労働時間規制から外し、新たな規制の枠組みが創設されます。ただし、制度導入には法律に定める企業内手続きが必要です。
2019年4月1日
④フレックスタイム制の拡充
労働時間の調整が可能な期間(清算期間)が1カ月から3カ月へ延長されます。
2019年4月1日
⑤勤務間インターバル制度の導入 (努力義務)
1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保するものです。
2019年4月1日
⑥労働時間の客観的な把握の義務づけ
裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての人の労働時間が客観的な方法で適切に把握しなければなりません。
2019年4月1日
⑦産業医・産業保健機能の強化
事業主から産業医への情報提供や産業医等による労働者の健康相談等が強化されます。
2019年4月1日
⑨不合理な待遇差をなくすための 規定の整備
同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、不合理な待遇差を設けることが禁止されます。
2021年4月1日
⑩労働者に対する待遇に関する 説明義務の強化
非正規雇用労働者は、正社員との待遇差の内容や理由などについて説明を求めることができるようになります。
2021年4月1日
⑪行政による助言・指導等や 行政ADR*の規定の整備
行政による助言・指導等や行政ADRの規定は、パート・有期・派遣で相違がありましたが、統一的に整備されます。 「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADRの対象となります。
2021年4月1日


*事業者と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決する手続きのこと
(出所)厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~」3~22ページのデータを基に
株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成


図表2 中小企業の定義


※上記は、①または②に当てはまることが条件です。
(出所)厚生労働省京都労働局「働き方改革関連法の主な内容と施行時期」2ページのデータを基に
株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成


中小企業の経営に対する影響と対策


「働き方改革」が中小企業の経営に及ぼす影響については、実施時期が大きく関係します。すでに2019年4月から実施されているものについては、至急対応する必要があります。
たとえば、②「年5日間の年次有給休暇取得の義務付け」により、有給休暇10日以上の保有者に対しては5日以上の取得が義務化されましたが、中小企業では人手が限られ、有給休暇の取得が進んでいないところが多いと言われています。
対策としては、1日単位ではなく半日単位で取得できるようにするなど、制度を柔軟化することが挙げられます。従業員のほうでも、子供の学校行事や家庭の都合に合わせて有給休暇を使いやすくなるでしょう。労使協定を結べば、会社のほうで業務を調整し、指定した日に休んでもらうこともできます。
より根本的には、業務の効率化を図ることが不可欠です。これまで曖昧だった業務のプロセスを整理したり、無駄の排除や省力化を進めたりするなどして、有給休暇を取得できる社内体制を整えていくしかありません。
⑥「労働時間の客観的な把握の義務付け」も2019年4月から始まっています。中小企業ではいまだにタイムカードや出勤簿を使っているところもあるでしょうが、この機会に勤怠管理ソフトなどIT活用を検討すると良いでしょう。勤怠集計や給与計算の効率もアップするはずです。
さらに、2020年4月からは、①「残業時間の上限の規制」が始まります。これまでのような残業が難しくなるという前提で、受注の平準化や業務プロセスの見直しをいまから始めたいところです。また、2023年4月からは⑧「月60時間超の残業の割増賃金率の引上げ」が行われ、コスト的にも残業はより難しくなります。残業なしでも回る仕組みづくりを今から少しずつでも進めたほうがよいでしょう。
もうひとつ、2021年4月から始まる⑨「不合理な待遇差をなくすための規定の整備」、いわゆる同一労働・同一賃金はさらに難易度が高い課題です。簡単に言えば、同じ責任、同じ仕事をしているのであれば、パートやアルバイトも正社員と同じ待遇にしなければならず、それが無理ならば、パートやアルバイトと正社員との間で、責任や仕事の内容に差をつける必要があるということです。ここでもやはり、業務のプロセスと内容の整理がポイントとなります。


まとめ


中小企業にとっても「働き化改革」はまったなしの課題です。大企業より多少、適用時期は猶予されていますが、あまり時間はありません。できるところから、いますぐ対応を始めるべきだと言えるでしょう。


中小企業は「働き方改革」にどう対応すべきか?|経営トピックス|100年企業戦略オンライン : https://100years-company.jp/articles/topics/060066




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