言語学習は子どもの「今」に合った方法を選ぶ

ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、日本の英語学習者と状況が似ている、イギリスに住む小学生(8歳~11歳)が外国語としてのフランス語を教室で学習する(週に約60分のインプット)、という状況を取り上げた論文をもとに、「意味のある練習」「意味ある学習」について考察しました。
取り上げる論文は「Investigating Distribution of Practice Effects for the Learning of Foreign Language Verb Morphology in the Young Learner Classroom (2019/子どもが教室環境で外国語の動詞形態を学習するときの練習量の配分効果に関する研究)」(著者:Rowena E. Kasprowicz, Emma Marsden, and Nick Sephton/ジャーナル:The Modern Language Journal 103(3): 580-606)です。

■ 言語習得に重要な「インプット」を左右する要因
言語習得にはインプットが重要ですが、特に子どもがインプットを内在化(インプットに含まれる情報を理解して自分の知識として習得)して活用できるかどうかは、
・インプットの量(Cheung et al. 2019)
・学習者のライフステージ(年齢または認知能力の発達段階)(Abrahamsson 2018)
・言語コンテクスト(インプットの種類)(Castellano-Risco, Alejo-Gonzalez, and Piquer-Piriz 2020)
・子どもが文法や語彙、音韻のどれを学習しているか(Ellis 2002)
といったいくつかの要因により大きく左右されます。学習者の状況に正しくマッチしていると、インプットが効果的なものになりますが、第二言語を学ぶ世界中の多くの子どもたちは、学ぶ言語にふれる量が比較的少ない「教室」という環境の中で、最初に学ぶことになります。この研究もまさにそうした子どもたちを対象にしています。

3グループ、3つの分野の検証で「意味のある練習」の効果を明らかに
この研究の参加者は、イギリスで第二言語としてフランス語を学ぶ子どもたち。3つのグループに分け、3グループとも合計180分間、フランス語の文法にふれました。
・グループ1:3.5日に1回30分ずつ(計6回)、文法項目を練習
・グループ2:7日に1回60分ずつ(計3回)、文法項目を練習
・グループ3:この実験における統制群。ほかの2グループが参加する練習には不参加

練習方法(インプット方法)としては、生徒たちが「秘密のスパイ」となり謎解きをする、コンピュータゲームを活用。子どもたちは文法項目について短い説明を受けながら一連のミニゲームをこなしていったあと、「意味のある練習」を繰り返し、各レッスンの最後にその文法のテストを実施。つまり、文法項目の説明を受けるだけではなく、文の構造(例:動詞の語形変化)によって意味を判断する練習をすることによって文法知識を身につけることができるかどうか、ということを調べたのです。

研究の目的は3つの分野の検証で、
(1)7日間隔のグループと3.5日間隔のグループのどちらが、42日後のテストまで学習内容を保持できるか。
(2)コンピュータゲームを使ったレッスン中の正確さによって、文法形式に関する記憶の保持を予測できるか。
(3)個々の参加者の言語分析能力(Language Analytic Ability / LAA)がこれらの文法項目の学習と記憶保持にどのように影響するか。LAAとは、文法のルールを理解し、そのルールを適切に応用するための内的な能力(Skehan 1998)です。
LAAテストでは「学習者の第一言語(L1)におけるメタ言語的知識(metalinguistic knowledge)と文法的感受性(grammatical sensitivity)」と「学習者が新しい言語でパターンを発見し、文法的なルールを応用する能力」、という2つの側面が調べられます。

■ 研究結果:練習での正確性は高くても長期的定着は不十分
コンピュータゲームを使って21日間練習した直後に学習成果を確認するための事後テスト、42日間後に学習内容を保持しているかどうかを確認するための再テストを実施。
1) 文章と絵のマッチングテスト(ある文章を読み、正しい文法知識に基づいて文章内容に一致する絵を選ぶ)
2) 文法的に正しい文章を使った容認性判断テスト
3) 文法的に正しくない文章を使った容認性判断テスト
この3種類のテストにより、全体として練習での正確性はかなり高く、子どもたちがコンピュータゲームから学習対象の文法項目を身につけていたものの、42日後に実施された事後テストのスコアでは、長期的な定着は不十分だったことが示されました。またグループにかかわらず、言語分析能力(LAA)が高いほどテストのスコアが高く、学習目標となっている文法知識をより保持していることがわかりました。

■ この研究論文に関する4つのポイント
今回、IBSではこの研究で示される4つのポイントをまとめました。
【1】インプット量が限られた環境(教室)の中では、「意味のある練習」をすることで、子どもたちは難しい文法項目を学ぶことができる。
【2】個人の脳内での情報処理能力はそれぞれ異なるペースで発達するため、低年齢の子どもは直接的な指導を受けたほうがより効果的に学ぶことができる。
【3】コンピュータゲームを活用した言語学習は、文法学習に役立つ。
【4】子どもは成長に伴って認知能力が変化し、可能な指導方法や学習方法も変わってくる。

日本の英語の授業のような環境では、言語の形式(文法)と意味のつながりを強めたあとに、そのつながりを思い出させるような「意味のある練習」は、有効な学習メカニズムとなり得ます。しかし、この明示的な学習方法を最大限に活用するためには、子どもの年齢やインプット量=子どもの「今の状況」を意識しなければなりません。

また、この方法は学校の教室だけに限られるものではありません。この研究が示すように、コンピュータゲームは学習の促進に役立ちます。子どもが文法や言語のほかの要素に気づくのを助けるプログラムやゲームなどがあれば、幼い子どもへのインプット量を増やし、有意義な学習方法になるでしょう。それは、学校の授業だけに頼らず、子どもにより良い学習環境を提供することにもなります。

詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

■言語学習はいまの自分に合った方法を選ぶ
https://bilingualscience.com/introduction/%e8%a8%80%e8%aa%9e%e5%ad%a6%e7%bf%92%e3%81%af%e3%81%84%e3%81%be%e3%81%ae%e8%87%aa%e5%88%86%e3%81%ab%e5%90%88%e3%81%a3%e3%81%9f%e6%96%b9%e6%b3%95%e3%82%92%e9%81%b8%e3%81%b6/

■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)
設 立:2016年10 月
URL:https://bilingualscience.com/




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