厚生労働省年金局は2026年8月7日、令和7年度(2025年度)の収支決算の概要を公表した。年金積立金は時価ベースで302兆5,893億円となり、前年度から42兆5,136億円増えて過去最高。この増加分の内訳は、含み益(時価と簿価の差)の増加40兆6,292億円(95.6%)と、簿価ベースの増加1兆8,844億円(4.4%)である。背景にあるのは運用環境の変化で、運用利回りは厚生年金保険15.85%・国民年金16.18%、前年度はいずれも0.66%だった。
※本リリースは報道関係者向けの情報提供資料です。数値はすべて厚生労働省年金局の公表資料から引用しており、編集部が独自に推計した数値はありません。行っている計算は公表値どうしの引き算と足し合わせだけです。
■増えた42兆5,136億円の内訳
含み益(時価-簿価)の増加 40兆6,292億円(95.6%)
簿価ベースの増加 1兆8,844億円(4.4%) 単年度の歳入歳出差+業務勘定剰余金
合計(時価の増加) 42兆5,136億円(100%)
※運用利回りは厚年15.85%・国年16.18%(前年度はいずれも0.66%)。
■本リリースのポイント
1. 年金積立金は時価302兆5,893億円で過去最高。前年度から42兆5,136億円増えた。厚生年金保険は6年連続の増加、国民年金は2年ぶりの増加(いずれも時価ベース)。
2. 増加分の95.6%は含み益(時価と簿価の差)の増加。131兆6,764億円から172兆3,056億円へ40兆6,292億円拡大した。運用利回りは厚生年金保険15.85%・国民年金16.18%で、前年度はいずれも0.66%だった。
3. 簿価ベースの増加は1兆8,844億円(4.4%)。単年度の歳入歳出差(1兆8,362億円)と業務勘定剰余金(481億円)の合計。
4. 厚生年金の単年度の黒字幅は縮小。歳入歳出差は3兆0,735億円から1兆7,653億円へ1兆3,082億円縮んだ。歳入が2兆9,672億円増えた一方、基礎年金拠出金の増加等で歳出が4兆2,755億円増えたため。両年度とも黒字である。
5. 国民年金の歳入の16.2%は年金積立金管理運用独立行政法人納付金(7,034億円)。前年度から3,832億円増えた。一方、保険料収入は1兆3,988億円から1兆3,756億円へ減少している。同納付金を除くと単年度は-6,324億円。
■「過去最高302兆円」の内訳
厚生労働省年金局は2026年8月7日、「厚生年金保険・国民年金の令和7年度収支決算の概要」を公表した。積立金についての記載は次のとおり。
【同資料 3.決算結了後の年金積立金】
令和7年度決算結了後の年金積立金は、簿価ベースで 130 兆 2,837 億円となった。また、時価ベースでは、前年度より 42 兆 5,136 億円増加し、過去最高の 302 兆 5,893 億円となった。
なお、厚生年金保険は6年連続の増加(+41兆2,005億円)、国民年金は2年ぶりの増加(+1兆3,132億円)となった。
ここで簿価と時価という2つの数字が出てくる。簿価は帳簿上の金額、時価は保有資産を市場価格で評価し直した金額である。
【年金積立金(合計)の内訳と増加要因】
簿価ベース 令和6年度 128兆3,993億円 → 令和7年度 130兆2,837億円 増加 1兆8,844億円(4.4%)
時価と簿価の差 令和6年度 131兆6,764億円 → 令和7年度 172兆3,056億円 増加 40兆6,292億円(95.6%)
時価ベース 令和6年度 260兆0,757億円 → 令和7年度 302兆5,893億円 増加 42兆5,136億円(100%)
※1兆8,844億円+40兆6,292億円=42兆5,136億円。含み益は編集部が時価から簿価を引いて算出した。計数は端数整理のため合計に一部不一致がある。
【含み益の増加40.6兆円と、GPIFの運用収益41.3兆円の関係】
含み益の増加40兆6,292億円と、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用収益は同じ額ではない。同資料の明細表(時価併記版)の注記*4から引き算で求めると、運用収益は厚生年金保険39兆3,918億円・国民年金1兆9,408億円の計41兆3,326億円である。
差の7,034億円は、GPIFから国民年金の歳入へ納付金として払い込まれた分である。この分は簿価側に移っているため、含み益からは外れる。
時価の増加42兆5,136億円 = 運用収益41兆3,326億円 + 簿価の増加1兆8,844億円 - 納付金7,034億円
同資料の注記は「運用利回りは、時価ベースの運用収益の利回りである」としている。その利回りは厚生年金保険15.85%・国民年金16.18%で、前年度はいずれも0.66%だった。積立金が過去最高になった背景にあるのは、この運用環境の変化である。
なお運用収益の額そのものは同資料に印字されておらず、注記*4の[ ]内の値から引き算で得られるものである(*5から求めると端数整理で1億円ずれる)。内訳(利息・配当・売買損益の別)は示されていないため、本リリースでも区別していない。
■簿価ベースの増加は1兆8,844億円
簿価の増加1兆8,844億円は、次の2つの合計である。
単年度の歳入歳出差 1兆8,362億円(厚生年金保険 1兆7,653億円+国民年金 709億円)
業務勘定剰余金の組入れ 481億円(厚生年金保険 433億円・国民年金 47億円。内訳の和は480億円で、公表の合計とは端数整理により1億円の差がある)
【ただし、国民年金の歳入の16.2%は運用の成果】
この簿価の増加を「保険料と給付のやりくりだけで積み上がった分」と読むことはできない。国民年金の令和7年度の歳入4兆3,312億円のうち、7,034億円(16.2%)は年金積立金管理運用独立行政法人納付金である。同資料は歳入増加の主因としてこの納付金の増加(3,832億円)を挙げている。
同納付金を除くと、国民年金の単年度の歳入歳出差は-6,324億円になる。一方で保険料収入は1兆3,988億円から1兆3,756億円へ231億円減っている(同資料はこの減少の理由を示していない)。厚生年金保険については、同納付金は両年度とも計上がない。
■単年度の黒字幅は、厚生年金で縮んでいる
【単年度の歳入歳出(単位:億円)】
厚生年金保険 令和6年度 歳入 503,537/歳出 472,802/差 30,735
厚生年金保険 令和7年度 歳入 533,210/歳出 515,557/差 17,653(△13,082)
国民年金 令和6年度 歳入 37,632/歳出 37,349/差 282
国民年金 令和7年度 歳入 43,312/歳出 42,602/差 709(+427)
両年度とも歳入が歳出を上回っており、単年度の収支は黒字である。厚生年金保険で黒字幅が縮んだのは、歳入が2兆9,672億円増えた一方、基礎年金の給付に要する費用の増加等により歳出が4兆2,755億円増えたためと説明されている。
※端数整理のため、国民年金では歳入-歳出が公表の歳入歳出差と1億円、厚生年金保険では歳入の前年度差が1億円ずれる。
■この数字で言えないこと
資料自身が、比較の限界を2点注記している。
【同資料 注記】
財政検証における年度末積立金は、厚生年金基金が代行している部分等を含んでいるが、「積立金(時価ベース)」には含まれていないため、両者を単純に比較することはできない。(厚生年金基金の代行部分等を含む積立金の額は、厚生年金基金からの報告を受けて集計した後、12月頃に公表予定である。)
平成 27 年 10 月に被用者年金制度が一元化されたが、「厚生年金保険」は年金特別会計厚生年金勘定のみであり、共済組合等は含んでいない。
したがって、この302兆円を財政検証の見通しと並べて「想定より多い/少ない」と論じることはできない。共済組合等も含まれていない。厚生年金基金の代行部分等を含む積立金の額は、12月頃に公表予定とされている。
あわせて押さえておきたいのは、積立金は給付財源の一部にすぎないということである。年金給付の大半は、現役世代が納める保険料と国庫負担で賄われている。積立金の増減だけを見て制度全体の状況を判断することはできない。
■編集部コメント
この記事で扱った数字は、すべて厚生労働省が公表しているものである。新しく計算したのは引き算と足し合わせだけで、推計は一つもない。それでも並べてみると、「過去最高」の増加分42兆5,136億円のうち95.6%が含み益の増加であり、その背景にある運用利回りが前年度の0.66%から15.85%(厚生年金保険)へ跳ねた1年だったことが分かる。
これは「見せかけの増加」でも「実力で稼いだ」でもない。年金積立金は長期で運用される基金で、単年度の利回りは市場環境で大きく振れる。前年度は0.66%だった。だからこそ制度の評価は、単年度の積立金額ではなく財政検証のような長期の枠組みで行われる。同資料自身が「財政検証における年度末積立金とは単純に比較できない」と注記しているのは、そのためである。
一方で、単年度の収支には別の動きが出ている。厚生年金保険の歳入歳出差は3兆0,735億円から1兆7,653億円へ縮み、国民年金では歳入の16.2%を運用の成果(年金積立金管理運用独立行政法人納付金)が占め、保険料収入そのものは減っている。運用が良かった年ほど、この部分は見えにくくなる。
私たちがFP相談の現場で見てきたのは、この種の大きな数字が個人の判断にほとんど結びつかないことだった。302兆円と聞いても、自分の年金がいくらになるかは分からない。確認すべきは、ねんきん定期便に載っているご自身の記録である。公的年金で足りない部分がどれくらいあるのかは、世帯の年齢と働き方で変わる。(IKIGAI TOWN 編集長 塩飽哲生)
■調査概要
分析主体:IKIGAI TOWN 編集部(スペシャリスト・ドクターズ株式会社)
調査テーマ:年金積立金(時価ベース)の増加分を、含み益の増加と簿価ベースの増加に分解する
出典:厚生労働省年金局「厚生年金保険・国民年金の令和7年度収支決算の概要」(2026年8月7日公表)
編集部の計算:公表値どうしの引き算と足し合わせのみ。推計は行っていない。含み益=時価-簿価。運用収益は同資料の明細表の注記*4から引き算で算出し、前年度末時価で割った値が公表の運用利回りとおおむね一致すること(±0.5ポイント以内)を確認した。分母の範囲が異なるため厳密一致は期待できない
検算:各制度の歳入-歳出が公表の歳入歳出差と整合すること(端数整理±1億円)、簿価の増加が歳入歳出差+業務勘定剰余金と整合すること、時価の増加=運用収益+簿価の増加-納付金が成り立つこと、運用収益を前年度末時価で割った値が公表の運用利回りとおおむね一致すること(±0.5ポイント以内)を機械的に確認した。引用は出典PDF全文の抽出テキストと機械照合している
確認日:2026年8月30日
初出発表日:2026年8月30日(https://ikigai.town/ja/press/2026-08-30/)
■ご利用にあたっての注意
本リリースは情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘・推奨を目的としたものではありません。含み益は時価と簿価の差です。GPIFの運用収益は同資料に印字されておらず、注記*4から引き算で得た額です。内訳(利息・配当・売買損益の別)は示されていません。運用収益は市場環境により増減し、前年度の運用利回りは0.66%でした。積立金は年金給付の財源の一部です。積立金の増減のみで制度の持続性を判断することはできません。同資料は共済組合等を含まず、財政検証における年度末積立金とは範囲が異なるため単純比較はできません。個別の年金見込額は加入記録によって決まります。
図表・詳細:https://ikigai.town/ja/press/2026-08-30/


